1.はじめに
先日、ガソリンスタンドの業界誌を作成する仕事に携わる方とやり取りをしていたところ、「ガソリンスタンドの現場に行くと新規事業立ち上げの事例や、新規事業の見出し方についてよく質問を受ける」という話を聞きました。
ガソリンの需要減退や油外商品の伸び悩みといった状況の中、新規事業に歩を進めたいと考えるガソリンスタンドの経営者は多数存在することが想定されます。そこで今回の記事では、窮地に陥った物流業者が復活した事例と、イノベーションを起こす企業の特徴に関する調査結果から、どのように新規事業を見出すべきか述べていきます。
2.新規事業で活躍する物流業者
都内のある運送業者は現在、運転手付きのトラックを時間制でレンタルするサービスを提供しています。用途は多岐にわたり、これまで以下のような需要に対応し、好評を得ています。
- 学生が吹奏楽の楽器を会場まで運ぶ。
- 大型の模型を展示会場まで運ぶ。
- 展示会の会場に自社ブースを設置するための備品を運ぶ。
- 4トントラックの荷台をステージにしてショーを行う。
また、かつてメッシやネイマールも所属していたフランスのプロサッカーチーム「パリサンジェルマン」のジャパンツアーにおいて、 選手やコーチ・監督の荷物や道具を試合日程に合わせて会場や宿舎に運びました。そんな同社は、もともとある物流会社の下請け企業でした。
3.窮地からの逆転劇
ある日、元請け企業から「社内で配送業務を実施することにしたため、契約を解除したい」という通告が来ました。その仕事が無くなると売上の8割を失ってしまうため、先方に出向き、面会を渋る経営者と直談判をしたものの「役員会で決まった話だから」とけんもほろろの対応でした。
従業員は全員解雇せざるを得ません。残ったものは借金2,000万円だけとなり、倒産も頭をよぎりました。
そのような中、同社社長は異業種の経営者が集まる勉強会に参加したところ、イソップ寓話のうさぎと亀の話を聞きました。ご存知のようにうさぎと亀が競争をして、油断したうさぎが負け、地道に走った亀が勝つというあの話です。
「なぜ亀はうさぎに勝つことが出来たのか。その答えは、うさぎが見ていたのは亀であってゴールではなかった。それに対して、亀が見ていたのはうさぎではなくゴールだったから」という話が同社社長の心に刺さります。
同社社長は経営のゴール、つまり自社のビジョンを考えました。そして、「脱下請け」をビジョンに掲げて試行錯誤した結果、引っ越しでもなく宅急便でもない、それらの中間に位置する冒頭の自社サービスに行き当たりました。
このビジョン設定と新規事業には密接な関係があることが、以下でご紹介する米国の調査でわかっています。
4.イノベーションを起こす企業の特徴
2023年に発表された米国のIT企業を対象とした調査結果では、ビジョンを明確にし、共有している企業の方が、革新的なアイデアを生み出す確率が高いことが示されました。この調査結果は、ビジョンとイノベーションの関係について示唆に富むものですが、以下で詳しく見ていきます。
(1)調査概要
この調査は、米国を拠点とする100社のIT企業を対象とし、以下の2つのグループに分類しました。
- ビジョン共有グループ:自社のビジョンを明確に定義し、社員と共有している企業
- ビジョン非共有グループ:自社のビジョンを明確に定義しておらず、社員と共有していない企業
両グループの革新的なアイデア創出能力を比較するために、以下の指標を用いました。
- 特許取得件数:1年間における特許取得件数
- 新製品・サービスの発売件数:1年間における新製品・サービスの発売件数
- 顧客満足度:顧客満足度調査の結果
(2)調査結果
調査の結果、ビジョン共有グループの方が、ビジョン非共有グループよりも以下の点で優れていることが示されました。
- 特許取得件数:ビジョン共有グループは、ビジョン非共有グループよりも平均20%多い特許を取得していました。
- 新製品・サービスの発売件数:ビジョン共有グループは、ビジョン非共有グループよりも平均15%多い新製品・サービスを発売していました。
- 顧客満足度:ビジョン共有グループは、ビジョン非共有グループよりも平均5%高い顧客満足度を獲得していました。
これらの結果から、ビジョン共有がIT企業における革新的なアイデア創出に有意な影響を与えることが示唆されました。
(3)ビジョンがイノベーションに貢献するメカニズム
ビジョンがイノベーションに貢献するメカニズムは、以下の3点が考えられます。
- 方向性の明確化:ビジョンは、企業が目指すべき方向性を明確にすることで、社員の思考と行動を統一し、革新的なアイデア創出に集中できるようにします。
- モチベーションの向上:ビジョンは、社員に共感と使命感を与え、モチベーションを高めることで、より積極的にアイデアを生み出すように促します。
- リスク許容度の向上:ビジョンは、明確な目標があることで、失敗を恐れずに挑戦する文化を醸成し、革新的なアイデアの実現可能性を高めます。
5.まとめ
米国IT企業を対象とした調査は、ビジョン共有が革新的なアイデア創出に有意な影響を与えることを示唆しました。ビジョンは、企業の方向性を明確化し、社員のモチベーションを高め、リスク許容度を向上させることで、イノベーションを促進します。企業にとって、ビジョン共有は競争優位性を維持し、持続的な成長を遂げるために不可欠な要素と言えるでしょう。
【弊社ホームページ】
https://www.roadsidekeiei.jp/