1.はじめに
新人スタッフの早期離職は、採用や育成活動への費用や労力を無駄にさせるだけでなく、人材不足が緩和することを期待していた既存スタッフのモチベーションを低下させ、彼らの離職率も高めてしまうリスクがあります。
昔のようにひとつの会社に長年勤務するという文化が廃れた現在は、早期離職の対策に注力する必要があり、今回の記事では、そのためのリーダーシップについて見ていきます。
2.SL理論とは?部下の成長段階に合わせたリーダーシップ
SL(Situational Leadership)理論とは、アメリカの経営学者P.ハーシーとK.ブランチャードが提唱した、部下の成長段階に合わせたリーダーシップを示したものです。SL理論を理解することで、リーダーは効果的な指導を行い、早期離職を防止することが期待できます。
SL理論では、以下に示したように部下の成長段階を4つに分類し、それぞれの段階に適したリーダーシップスタイルを定義しています。
- 未熟な段階:基本的な知識やスキルが不足しており、指示や教育が必要です。まだ仕事を任せる状況にはない段階です。
- 成長の段階:ある程度知識やスキルを身につけ、業務をある程度こなせるようになりますが、より高度な仕事については、まだサポートが必要な段階です。
- 成熟の段階:自ら考え、行動できるようになり、指示はほとんど必要なく、より高度な仕事をどんどん任せていくべき段階です。
- 熟練になった段階:豊富な経験と知識を活かし、高度な仕事をこなせる段階です。
また、リーダーシップスタイルは以下の2つの行動が多いか少ないかを組み合わせます。
- 指示的行動:リーダーが明確な指示を与え、目標達成に向けて具体的に指導するスタイル。
- 支援的行動:リーダーが傾聴、共感、承認などを通して、部下の自主性や責任感を育むスタイル。
これらを踏まえると、部下に応じたリーダーシップスタイルは下図のようになります。
3.成長ステップの設定で失敗した事例
あるガソリンスタンドでは、上記を踏まえて部下の各段階を以下のように定義して、育成をしたものの、早期退職は減りませんでした。
- 未熟な段階:接客が不慣れな段階であり、現場のリーダーが数多く指示を出すとともに、マニュアルに基づいて教育をする段階。
- 成長の段階:接客ができるようになったので、現場のリーダーは洗車作業やオイル交換に関する指示を出すとともに、それら作業の支援をして行く段階。
- 成熟の段階:タイヤ交換や車検など、より高単価な油外販売をどんどん任せていくべき段階。
- 熟練になった段階:自主的に油外販売の実績をより高めていく段階。
このような各段階の設定は、「接客の成長」をないがしろにして、早く油外商品をたくさん売らせたいという意図が透けて見えます。
油外商品を販売するには、接客の高度化が必要ですから、このような設定をしてしまうと部下の成果が出にくく、成長実感も得にくいことから、早期退職に結びつきやすいと言えます。
4.成長ステップの設定で成功した事例
あるフルサービスのガソリンスタンドでは、部下の成長ステップを接客に絞り、以下の4つに分けています。
- 未熟な段階:接客が不慣れな段階であり、現場のリーダーの指示に基づいて、窓ふきと給油だけといった一部の接客業務を行い、接客に慣れていく段階。
- 成長の段階:現場のリーダーの指示に基づいて、誘導、受注、給油開始、窓ふき、給油完了、会計、お見送りといった一連の接客業務を行い、リーダーはそれら作業の支援をして行く段階。
- 成熟の段階:現場のリーダーの指示がなくとも、一連の接客ができるようになった段階。
- 熟練になった段階:一連の接客の中で、洗車やタイヤの空気圧点検のお勧めができる段階。
同店は、この一連のステップでスタッフが熟練になったら、次は洗車関連で未熟→成長→成熟→熟練のステップを目指し、その次はオイル、その次はタイヤといった形で、商品ごとに熟練を目指します。
また、タイヤ販売に注力している、あるセルフサービスのガソリンスタンドでは、部下の成長ステップを以下の4つに分けています。
- 未熟な段階:接客が不慣れな段階であり、現場のリーダーの指示に基づいて、給油許可ボタンを押したり、店内の清掃をしたりして、店舗に慣れていく段階。
- 成長の段階:現場のリーダーの指示に基づいて、顧客に給油の仕方や洗車機の使い方の説明をして、接客に慣れていく段階。
- 成熟の段階:現場のリーダーの指示がなくとも、不慣れな顧客を見出し、給油の仕方や洗車機の使い方の説明をして、接客していく段階。
- 熟練してきた段階:給油中の顧客に、タイヤの空気圧点検のお勧めや、その作業ができる段階。
このように、部下の成長段階を細かく設定し、それに応じたリーダーシップを発揮し、成果を出しやすくして、部下に成果を出させ、成長実感を与えることで、早期退職を防止することが期待できます。
5.まとめ
本記事では、SL理論を活用することで、ガソリンスタンドにおける早期離職を防止し、人材を育成・活用する方法について解説しました。
SL理論は、部下の成長ステップを4段階に分類し、それぞれのステップに適したリーダーシップスタイルを定義することで、効果的な指導を可能にします。しかし、単にSL理論の考え方を当てはめるだけでは、早期離職を防止することはできません。
成長のステップを具体的な内容に落とし込み、部下の業務内容や経験などを考慮した指導と支援を行うことが重要です。
具体的な実践例として、早期退職を改善させたフルサービスとセルフサービスのガソリンスタンドの取組みを取り上げました。これらの事例を参考に、ご自身の職場に合った実践方法を模索し、早期離職という課題を克服し、人材を最大限に活かした職場を作っていきましょう。