顧客の不安解消に向けた油外販売戦略:認知的不協和の理解と両面提示の重要性

コラム

1.はじめに

 買い物をして帰宅した後に「本当に必要だったのか?」「価格は高かったのではないか?」と不安になったことはありませんか?これは「認知的不協和」という心理現象が関係しており、ガソリンスタンドの油外販売でも発生しています。

「この買い物、失敗したべが?」

 今回の記事では、この認知的不協和のリスクとその解消策を述べていきます。

2.買い物後の「不安」はなぜ生まれる? 認知的不協和のメカニズム

 アメリカの社会心理学者、フェスティンガーとカールスミスは、1959年に「強制説得」という論文を発表しました。この論文では、以下の実験結果を述べています。

 実験の参加者(被験者)に退屈な作業に参加してもらい、その対価としてある被験者グループには1ドル、また別の被験者グループには20ドルを支払いました。

 その後、作業の内容について嘘の報告をするよう指示しました。すると、20ドルを支払われた被験者は、1ドルを支払われた被験者よりも、作業をより面白く評価する傾向があることがわかりました。

「1ドルより20ドルだいな」

 この実験結果は「認知的不協和」を強く支持するものであり、社会心理学における重要な発見の一つとなりました。

 認知的不協和は、「自分の考えや信念と、自分の行動や経験が矛盾している状態」を不快なものと捉え、その不快感を解消するために、人は自分の考えや行動を変えようとするという理論です。

 上記の強制説得実験では、20ドルを支払われた被験者は、高額な報酬をもらったという考えと、それに見合わない退屈な作業という経験の矛盾を解消するために、作業をより面白く評価して、報酬に見合った価値があるように考えを変えたと解釈できます。

 この認知的不協和をガソリンスタンドの事例で見てみましょう。

3.ガソリンスタンドでの事例:タイヤ交換の矛盾

 ガソリンスタンドにおける認知的不協和として、顧客が店舗スタッフの勧めに応じてタイヤ交換をしたが、帰宅後に「タイヤ交換は本当に必要だったのか」「タイヤの価格は高かったのではないか」と感じるケースがあります。

 つまり、顧客はタイヤ交換を承諾した一方で、必要性と価格に対する疑問を持ち、矛盾を抱えています。この矛盾を解消するために、顧客は自身の判断を再評価し、他者の意見や情報を求めることがあります。

「タイヤ交換してきたんだけど、いがったんだべが。。。」

 そこで、知り合いに聞いてみたり、ネットに書き込んで意見を募ってみたりしますが、その結果として「不必要だった」「高かった」と判断すると、そのガソリンスタンドは信用を失います。

 では、どのようにすれば、このようなリスクを軽減できるのでしょうか。

4.不安解消の鍵は「両面提示」

 上記のリスク軽減策として、購買時の納得度を上げ、購買後に抱く不安を極力低減できるように、両面提示の法則を活用することが挙げられます。

 両面提示の法則は、1960年代にアメリカの社会心理学者であるカール・ホヴランドとイライ・ロスによって提唱されました。これは、説得において、主張の肯定的な側面と否定的な側面の両方を提示することによって、説得力を高めるという心理法則です。

 彼らは、被験者に対して、予防接種に関するメッセージを提示し、メッセージの内容によって被験者の態度がどのように変化するのかという実験を行いました。

 メッセージの内容は次の3種類に分けられました。

  • 一方提示:予防接種を受けることのメリットのみを伝えるメッセージ
  • 両面提示:予防接種を受けることのメリットとデメリットを伝えるメッセージ
  • 何も提示しない

 この結果、両面提示のメッセージが、一方提示のメッセージよりも被験者の態度を変える効果が高いことが示されました。その理由は、両面提示された情報の方が、より客観的で公正であると受け止められ、情報源に対する信頼度が高まるためです。

 また、両面提示された情報の方が、相手の思考を活性化させ、より深く考えるように促すため、説得力が高まると考えられています。

 ガソリンスタンドのスタッフが油外販売をする際に、メリットとデメリットの両方を説明することは、まさにこの両面提示の法則を実践していると言えます。

 両面提示の法則を効果的に活用するためのポイントとして、以下が挙げられます。

  • メリットとデメリットの両方をバランス良く提示する。
  • デメリットを説明する際は、ネガティブな印象を与えないように注意する。
  • デメリットを説明した後に、どのように克服できるのかを提案する。
  • 顧客の質問に丁寧に答える。

 これらのポイントを意識することで、より効果的に両面提示の法則を活用することができます。例えばガソリンスタンドでタイヤ交換をお勧めする際は、以下の情報を提供することによって、認知的不協和の発生リスクを低減できると言えます。

【タイヤを交換することによるメリット】

  • パンクや破裂などのリスクが下がる。
  • 燃費向上が期待できる。
  • 走行中の振動や音の軽減が期待できる。

【タイヤを交換することによるデメリット】

  • 費用負担が発生する。
  • 作業時間が発生する。

 このような販売時に顧客へ提供するべき説明を軽視せず、忙しいときであってもきちんと説明できる店舗が、顧客を不安にさせず、信頼を高めることが出来ると言えるでしょう。

5.まとめ

 認知的不協和とは、自分の考えや信念と、自分の行動や経験が矛盾している状態を不快なものと捉え、その不快感を解消するために、人は自分の考えや行動を変えようとするという理論です。

 両面提示の法則は、説得において、主張の肯定的な側面と否定的な側面の両方を提示することによって、説得力を高めるという心理法則です。

 認知的不協和と両面提示の法則を理解することで、ガソリンスタンドの油外販売における顧客の不安や不満を軽減し、リスクを低減することができます。顧客満足度向上と売上アップにつながる、効果的な油外販売を目指しましょう。

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