ガソリンの行くところがなくなる?
地方都市で複数店舗を展開するガソリンスタンド運営会社の事例です。展開する店舗の1つに売上のほとんどを法人需要が占める店舗がありました。近くに問屋街があり、法人が集積している立地であったことがその要因でした。
その店舗である日、店長がスタッフルームで事務処理をしていると、ドアがノックされ、入室してきたのは大口取引先A社の部長でした。その店舗の売上を構成する法人の中でもトップクラスの取引先です。
その部長が開口一番、高圧的な態度で言いました。「お宅のガソリン、行くところがなくなるかもよ?」暗に、当社は貴社のガソリンを買わなくなる可能性があるよ、と言っているのです。その部長は続けて以下の趣旨の発言をしました。「当社で扱うスーツを買って欲しい。そうすれば貴社との取引は今まで通り継続できる」
店舗スタッフから案内されて入室するのなら話は別ですが、そもそも、部外者立入禁止のスタッフルームに顧客が自発的に入室してくること自体、マナー違反なわけです。さらに高圧的な態度で、取引中止をちらつかせながら、自社製品の購入を要求しているのです。
そして、買って欲しいスーツの量は、数着レベルの話ではありません。数十着買って欲しいという要求でした。
短期的な視点と中長期的な視点
要求を飲めば取引は継続していただけるものの、店長1人で手に負える要求ではありません。反面、要求を断れば取引中止の可能性があり、その損失は店舗にとって大きな痛手となります。
店長は本社に相談しました。ここで出た結論は、同社で働くスタッフ全員にスーツの消化ノルマを与える、というものでした。スタッフ自身が買っても、顧客に売っても構いません。いずれにせよ決められた数のスーツを消化させ、A社の要求に応える、というものでした。背に腹はかえられない、ということでしょう。
この対応の問題は、A社の要求に応えただけだったということです。
ガソリンの需要が低下していく中、社内でのスーツ需要の動向を見据えながら、衣料品販売事業進出の可能性を探り、新たな収益源を獲得するチャンスとすることも可能であったはずです。
同社はなぜそのようなことをしなかったのか。目の前のA社の要求に応えることさえできれば良いという短期的視点がそうさせたのでしょう。中長期的な視点があれば、多角化戦略は可能性として浮かんできて然るべき話です。
需要が低下していく業界に身を置く企業が早急に検討しなければいけないのは事業の多角化です。本業で稼ぎながら、徐々に新規事業を構築していかなければ、企業の長期的な存続は見込めなくなってしまいます。
なお、今回の事例で挙げたガソリンスタンドの運営会社は現在、存続していません。短期的な視点で目の前の案件だけを追い求めた結果なのかもしれません。
また、ガソリンスタンドにスーツを売ろうと持ちかけたA社も現在、存続していません。優越的地位の濫用と捉えられる行動が招いた結果なのかもしれません。
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