具体的な行動に基づくリーダーシップ

コラム

軍隊式のリーダーシップ

 あるロードサイド店舗運営会社に勤務するA店長は、多大な業績を挙げました。そのリーダーシップスタイルは、いわゆる「軍隊式」と呼ばれるもので、マニュアルやルールを整備し、それらを徹底的に徹底します。徹底するためには、怒鳴りつけることも多数あり、部下からは恐れられていました。

 そんなA店長についていけず退職する者も多かったため、A店長が率いる店舗では、当時、1年にも満たないキャリアのスタッフが一番のベテランでした。しかし、スタッフの中には、A店長を強烈に慕うスタッフもおり、彼らの活躍で、客数は前年比400%を超えました。

 そのA店長が、同じ業界のロードサイド店運営会社にヘッドハンティングされました。それに応じ、意気揚々と転職先へ乗り込んだA店長ですが、その店舗のスタッフはベテランが多く、一番キャリアの浅いスタッフでも勤務歴が2年を超えており、以前の職場とはかなり勝手が違っていました。

 しかし、A店長は、「軍隊式」のリーダーシップで客数を4倍以上に増やしたという自負がありましたので、その姿勢を崩さず、ルールを整備し、接客のマニュアル化も図りました。

 ほどなくして、スタッフからA店長に対する以下の不満が噴出するようになりました。
 「自分らはこれまでのやり方でやってきて不都合を感じていないのに、なんでA店長のやり方に変えなければならないのか」

 結果として、店舗の雰囲気は険悪なものとなり、A店長は数ヶ月でその店舗から離れざるを得なくなりました。

状況に応じたリーダーシップの種類

 アメリカのP.ハーシーとK.ブランチャードは「SL(Situational Leadership)理論」を提唱しました。これは職場を①未熟な職場、②成長してきた職場、③成熟した職場、④熟練の職場、の4タイプに分類し、それに応じた有効なリーダーシップは、行動で決まる、とするものです。

 A店長は後日、この理論を知り、ヘッドハンティング前の職場は①に該当し、たまたま自分の「軍隊式」リーダーシップがうまくハマったが、ヘッドハンティング後の職場は④に該当するのに、①に適合するリーダーシップを持ち込んだがために上手くいかなかったことに気付きます。

 このリーダーシップのSL理論では、リーダーの行動を以下の2つに分けています。

 ・部下に仕事を任せ、それを支援する支援的行動
 ・部下に指示を出し、それを守らせる指示的行動

 この行動量の大小を職場の状況に応じて変えていくことが効果的なリーダーシップにつながるとしています。すなわち、

 ①新人が多いなど未熟な職場では、仕事を任せることができないため、支援的行動は少なく、指示を出さないと動けないため、指示的行動を多くします。

 ②徐々に仕事に慣れてきて成長してきた職場では、簡単な仕事を任せ、それをフォローするという支援的行動は多く、指示的行動は相変わらず多くします。

 ③さらに成長して成熟の領域に入った職場では、さらに高度な仕事を任せ、それをフォローするという支援的行動は多くしますが、自分の判断で動けるようになってきますので、指示的行動は少なくします。

 ④熟練の領域まで達した職場では、支援的行動も指示的行動も少なくして、全面的に委任します。

成功体験に固執しない

 この理論を学んだA店長は、その後、他の店舗へ赴任しますが、店舗の成熟度に応じて行動を変えることにより、大きな成果を出すこととなりました。

 私たちは、成果を挙げた過去の行動を繰り返すことが多いはずです。しかし、外部環境は刻々と変わっていきます。その状況にその行動がフィットしているかどうか、常に第三者的視点で自身をチェックしたいものです。成功体験に固執し、状況を冷静に判断しないまま、過去にとった行動を繰り返すことにより、自分を苦しめないようにしたいものです。

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