せっかくお金と時間を使って研修に行かせたのに、研修後に何の変化もない部下がいたとしたら、その原因は研修や部下自身ではなく、店長にあることも疑う必要があります。
そのような店長に共通する特徴として、1.部下の話をほぐしていない、2.行動変容を認めていない、という点があるからです。
今回のコラムは、時間とお金をかけて研修を受講させた部下について、その後の変化を引き出せない店長に共通する特徴を見ていきたいと思います。
特徴1.部下の話をほぐしていない
前日に研修を受講し、翌日出社してきた部下と店長のやり取りを考えてみます。
店長「○○君、昨日は研修を受講してきたんだよね」
部下「はい、そうです」
店長「内容はどうだった?」
部下「はい、大変ためになりました」
店長「それは良かった、その内容を仕事に活かして下さいね」
このようなやり取りで、部下が前日の研修で学んだことを実践で活かすことを期待しても、その可能性は儚いレベルと言えるでしょう。
同様のシチュエーションで、以下のやり取りを考えてみます。
店長「○○君、昨日は研修を受講してきたんだよね」
部下「はい、そうです」
店長「何を学んできたの?」
部下「はい、顧客の固定化について学んできました」
店長「それは、日々の業務で実践できそうなこと?」
部下「はい、できると思います」
店長「どんな場面でどんなことを実践できそう?」
このようなやり取りをコーチングでは、チャンクダウンと言います。チャンクとは「塊」を指し、チャンクダウンは、質問を通じて「塊」をほぐしていくことを指します。人は「昨年の夏の旅行」「本社での会議」といった形で、記憶を「塊」として自身に格納しています。
よって、呼び起こされた記憶は抽象的なものになりがちです。それを質問によって、より具体化していくと、今後とるべき行動が見えてきます。
上記事例の最初のやり取りは、チャンクダウンが不足しており、部下の具体的な行動を引き出すことができていません。ですが、その次のやり取りは、これを引き出すことができる質問が連なっています。以下にチャンクダウンのポイントを示します。
チャンクダウンのポイント
チャンクダウンのポイントは、研修で何を学んできたのかという過去にフォーカスするよりも、今後どうするのかという未来にフォーカスすることを重視する点です。
そして、チャンクダウンでは、When(いつ行うのか)、Where(どこで行うのか)、Who(誰が行うのか)、Why(なぜ行うのか)、What(何を行うのか)、How(どのように行うのか)、How many(どのくらい行うのか)、How much(いくらで行うのか)という5W3Hを明らかにして行動を明確にしていくことを目指します。
このようにして、今後とるべき行動を明らかにしても、次に示すように、その行動を日々承認をして、それを強化させていかないと、行動変容に対するモチベーションを保つことができず、部下の行動は、いずれ元に戻ってしまいます。
特徴2.行動変容を認めていない
先ほどの事例で、例えばその店舗は、スタンプカードを配布していたとします。部下は研修で、そのスタンプカードの配布率を高めることが固定化策として重要だということを学び、研修後は、その配布率を管理し、日々その結果をスタッフ全員で共有することにしたとします。100人の来店があって、90人に配布することができたら、配布率90%ということになります。
朝、店長が出社すると、スタッフルームのホワイトボードに「○月○日(○)スタンプカード配布率○%」と書かれていました。それを書いた部下に対して店長が「おはよう」だけで済ませていると、部下としては、ホワイトボードを見てくれていたのかな、と不安になります。
何日かそれを継続していく中で、ある日、たまたま配布率をホワイトボードに書くのを忘れたとします。しかし、店長からは特に何の働きかけもない…このようにして、部下の行動は元に戻っていきます。
行動変容を認める、とは「ホワイトボードに書いたんだね」「配布率上がったね」「昨日の配布率は書いてなかったけど何かあった?」と声を掛け続けていく、ということです。この相手の行動を認めるコミュニケーションをコーチングでは「アクノレッジ」と言います。
ここまで、研修終了後に何の変化もない部下を持つ店長に共通する特徴として、1.部下の話をほぐしていない、2.行動変容を認めていない、という点を見てきました。経営者としては、傘下の店舗を管理する店長にこの2つの特徴がないか、ヒアリングを通じて確認していくことで、研修に費やしたお金や時間が後々活きてくることが期待できるでしょう。
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