あるガソリンスタンドスタッフから発せられた以下の質問に触れる機会がありました。なお、この店舗では、ガソリンを給油する際に、一緒にガソリンタンクに入れる添加剤の販売に力を入れています。
今までは、仕事を終えると店長や先輩社員から、スタッフに添加剤をどれだけ販売できたか聞かれていました。そして、売れなかった日は「おいおい、しっかり販売しろよ」などと声を掛けられていましたが、先日、店長から「1日にどれだけ売れたかだけではなく、どれだけ声掛けしたかもカウントして報告するように」と言われました。これは、他の店舗でも当たり前にやっていることなのでしょうか?といった質問です。
この質問の裏には、スタッフの「声掛けをカウントすることが面倒」「売れれば別に声掛け数にこだわらなくても良いのではないか」という意識が透けて見えます。
私の印象では、この添加剤をはじめ、洗車やタイヤなどガソリン以外の商品、つまり油外商品の販売に注力している店舗は、声掛け管理をしている店舗が割と多いです。しかし、声掛け管理をしたからといって、必ず油外商品が売れるとは限りません。今回紹介する罠にはまるケースが多いからです。
声掛け数管理の罠
別のあるガソリンスタンドの話です。この店舗もやはり声掛け数の管理をしていました。1日の目標声掛け件数は1人100件です。
ある日、アルバイトA君が仕事を終えて、退社しようとすると店長が「今日は声掛けを何件した?」と聞いてきました。A君は「80件です」と答えました。すると店長から「目標の100件に届いていないじゃないか。明日からしっかりやれよ」とお小言をいただいてしまいました。
次にアルバイトB君が仕事を終えて、退社しようとしたところ、同じように店長が「今日は声掛けを何件した?」と聞いてきました。B君は「120件です」と答えました。店長からは「よく頑張ってくれたね、明日もその調子で頼むよ」と激励の言葉をいただきました。
その後、店長が閉店作業をし、1日の実績がPOSからプリントアウトされてきました。個人別販売実績も打ち出されてきます。それには、A君の本日の売上高は50,000円、B君のそれは1,000円とありました。
A君は少ない声掛け数で大きな実績を挙げた反面、B君は多くの声掛け数で小さな実績しか挙げていません。そして、お小言を頂戴したのはA君、激励されたのはB君という、ちぐはぐなことになっています。
目標の置き換え
組織が徐々に成熟に向かい、マニュアルやルールが整備されてくると、その組織はお役所的な組織、つまり官僚制組織となっていきます。そのデメリットがいくつかあり、それらの総称を「官僚制の逆機能」といいます。そのひとつに「目標の置き換え」があり、「手段の目的化」とも言われます。
本来の目標は、売上高○○円、利益○○円といったものであり、声掛けは手段です。ところがA君、B君が働くガソリンスタンドのように、声掛け数を稼ぐことが目標となってしまうのが「目標の置き換え」です。では、これを防ぐにはどのようにすれば良いのでしょうか。
「なぜ」を意識させる
なぜ声掛けをするのかを意識させることにより、「目標の置き換え」を防止することが可能となりますが、留意点があります。
なぜ声掛けをするのかというと油外商品が売れるから、と答える方がいますが、これは因果が丁寧に繋がれていません。正確には、声を掛けると「関係性が深まり」油外が売れやすくなる、または、声を掛けると「必要性が認識され」油外が売れやすくなるとも言えるでしょう。
例えば、顧客との関係性を深めるために声を掛ける、ということであれば、「添加剤いかがですか」という御用聞き的な声掛けでなく、「最近寒くなりましたね」という気候などの雑談から入った方が有効であるはずです。
よって、その声掛けは、何のために行っているのか、直接的に狙う効果を意識させることにより、目標の置き換えが防止され、効果的な販売が期待できます。
今回のコラムでは、儲からないガソリンスタンドが陥りやすい罠として「目標の置き換え」を取り上げ、その対処策を見てきました。ギリギリの人数で運営しているからこそ、効率的な販売が求められます。そのためには、声掛けの直接的な効果を意識する必要があるのです。
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