正論でやり込める上司
あるガソリンスタンド運営会社では、交代したばかりの経営者がこれまでの組織風土に風穴を開けるべく、それまで現場で店長を勤めていたA氏を本社スタッフとして抜擢しました。
A氏は物怖じしない性格で部下、同僚だけでなく、上司にもどんどん自分の意見を言います。それを「生意気」と評する向きもありましたが、新たに赴任した経営者にとって、社風を変えるには、そのような人材こそ本社スタッフに必要と考えたようです。
抜擢人事からしばらくして、A氏から油外販売が思わしくない店舗の店長へ頻繁に電話がかかってくるようになりました。
その電話は、油外が売れない原因の追及を目的としていました。なぜ売れないのか、なぜ店長はそのように考えるのか、なぜ、なぜ、と店長は追い込まれ、しどろもどろになっていきます。A氏の言っていることは正論であるだけに、結果としてやり込められてしまいます。
しかし、このガソリンスタンド運営会社の業績が伸びることはありませんでした。
パフォーマンス・キラー
A氏の言動は、パフォーマンス・キラーの1類型と考えられます。パフォーマンス・キラーとは、コーチングで用いられる用語で、組織メンバーを激励し指導しようとしているつもりでも、メンバーのモチベーションを下げたり、自信を喪失させたりしている関わりのことを言います。
そして、パフォーマンス・キラーの特徴のひとつに、「メンバーや問題に向き合うことなく、逃避する」が挙げられます。
これには、A氏が行ったような正論のみを述べて物事を収束させようとする「理論武装」の他、問題のポイントをすり替えたり、違う話題をはじめたりする「転化」、根拠もなく安心させようとする「元気づけ」が挙げられます。
人間は、当然のことながら、理屈だけで動くものではありません。正論で人を動かそうとすることは、相手のモチベーションを低下させるリスクが伴います。私たち人間は、「何を」言われたかよりも「誰に」言われたかの方が重要な時もある、ということです。
物事を具体化する
部下の考えがまとまっておらず、漠然としている場合に、質問によって部下の考えを具体化させることは重要な取組みです。
具体化するとは、いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)の5W1Hを明確にする、ということです。
また、この5W1Hに、いくらで(How much)、どのくらい(How many)を加えて5W3Hとしても良いでしょう。
部下の考えを具体化する際に、上司として気をつけたいのは、「なぜ(Why)」を極力使わないようにすることです。これを連発すると、上述のA氏のように相手を追い詰めるだけになってしまい、モチベーションを下げてしまいます。
上司としては「なぜ(Why)」という問いは、自分に向けて発する問いだと認識する必要があるでしょう。つまり「なぜ、私はこの店長のモチベーションを上げることができないのだろう」、「なぜ、この店長は私に心を開いてくれないのだろう」と自問しつつ、店長の考えを具体化していく、ということです。
ガソリンスタンドの油外販売においてモチベーションが上がるコツとして挙げられるのは、まず、上司として部下のモチベーションを下げる取組みをしていないか、という点に目を向けることであると言えるでしょう。
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