ある婦人服店に勤務する女性スタッフAさんの以下の悩みに触れる機会がありました。その日、Aさんが勤務する婦人服店に女性客が入店してきました。ちょうど1人で売場にいたAさんが担当したところ、この顧客は1度同店に入店して色々商品を見て、再度来店したとのことでした。そして、Aさんの一生懸命な接客もあり、2点のお買い上げとなりました。
この店舗は個人実績を管理しており、店長がそれをグラフに記入して休憩室に貼り出しています。翌日Aさんが出社し、グラフに記入された自分の個人実績を見ると、昨日の実績のうち1点しか自分の実績になっていません。自分が販売したはずのもう1点は店長の実績になっていました。
昨日2点お買い上げいただいた顧客は、事前に1度来店されており、Aさんは、おそらく店長がその際に接客したのであろう、と解釈しました。ですが、一生懸命接客して2点売ったのに、という悔しい気持ちも少し感じており、釈然としないのですが…という悩みです。
個人の実績を管理することには、メリットもありますが、このようなデメリットもあります。今回のコラムでは、婦人服店が安定した売上を得るために心掛けたいこととして、個人の実績管理について見ていきます。
組織の成立要件
渋谷のスクランブル交差点を渡る人々を見て、私たちは彼ら彼女らを組織とは呼びません。ただの人間の集合体と見なします。では、彼ら彼女らを組織と呼ばないのはなぜなのでしょう。
アメリカの著名な経営学者であるチェスター・バーナードは組織の成立要件として、共通目的、貢献意欲、コミュニケーションを挙げています。
渋谷のスクランブル交差点を渡る人々は、横断歩道を渡るという目的はありますが、渡る方向はバラバラです。共通した目的がないため、それを達成しようという意欲も違う方向を向いています。また、共通目的がありませんのでそれを達成しようというコミュニケーションもありません。
前述のAさんが勤務する婦人服店は、まず、共通目的が存在していません。各個人の目標が与えられており、それを達成しようという目的はあるものの、それは各個人同士が共有するものではないからです。つまり、組織ではない、ということです。
属人的販売のデメリット
組織ではない店舗の販売は、自ずと属人的販売となります。これが怖いのは、売上が安定しないことです。販売力が高く、自分の顧客を持っているスタッフが退職や転勤でその職場からいなくなると途端に業績が下がります。
また、前述の婦人服店のように、実績を誰につけるかで揉めることもあり、これをきっかけに人間関係にヒビが入ることもあります。
なぜ、個人実績を管理しているのかというと、店舗の業績を上げるためでしょう。では、店舗業績をスタッフ個人に管理させればどうなるのでしょうか。
店舗業績をスタッフ個人に管理させる意義
店舗が個人の実績を管理するのではなく、各個人が自店の実績を管理すれば、店舗全体の業績を把握することが可能となります。それは、店舗として達成するべき目的・目標の共有が可能となります。
なお、個人実績を管理しないと個人の評価がしにくい、という向きもあります。ですが、個人の定量的評価は、勤務時間や遅刻の有無程度に留め、接客スキルや商品知識といった定性的評価に留めておけば良いでしょう。店舗全体に目を向けさせ、次の店長候補を育成することを優先させましょう。
このようにして目的を共有させたら、その達成に向けた貢献意欲の醸成とコミュニケーションの促進に取り組めば、自ずと属人的販売から組織的販売にシフトされ、売上は安定することとなります。
貢献意欲の醸成
ここで言う貢献意欲とは、共有した目標を達成したいというモチベーションです。モチベーションを向上させるには、アメリカの臨床心理学者であるハーズバーグが提唱した「動機付け=衛生理論」を活用することが有効です。以下のコラムを参考にして下さい。
ベテラン社員のモチベーション
コミュニケーションの促進
コミュニケーションの促進のポイントは、オープンになること、傾聴することです。
まずはリーダーがオープンになり、自己開示をするとともに、フィードバックが行き交う職場にすることで、風通しが良くなり、共通目的達成のための意見交換も活発になるでしょう。以下のコラムを参考にして下さい。
人手不足を食い止めるために意識するべき3つの窓
また、人は意識するしないにかかわらず、自分のことを分かって欲しいという欲求を持っています。よって、自分のことを話したがるのですが、その際に傾聴をすることで、コミュニケーションが円滑になっていく可能性が高まります。
ロードサイド店舗の店長が身に着けたいコーチングの基本スキル
平日の客数を伸ばしたい飲食店が行うべき3つの対応
婦人服店が安定した売上を得るために心掛けたいこととして、個人実績の管理に基づく属人的販売ではなく、組織的販売をする重要性とその手法について見てきました。ファストファッションの普及により、婦人服店は厳しい状況に置かれています。ぜひ、今回のコラムを参考にして少しでも売上を安定に繋げていっていただければと思います。
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