当コラムでは過去に経営革新計画の書き方を15回にわたって述べてきました。今回のコラムでは、それを踏まえて経営革新計画を活用した事例をお伝えしていきます。
事例企業A社の概要(当時)
A社は江戸時代に発祥し、もうすぐ創業180年を迎える、婦人服メインの雑貨店です。高度成長期・バブル期には、低価格販売で大幅に業績を伸ばし、地域での知名度も大きく向上させてきました。
【取扱分野】衣料品、寝具、日用品、家庭用品、食品、化粧品など
【資本金】3,000万円
【人員構成】26名(役員4名、正社員5名、パートタイマー17名)
【売場面積】360坪
【立地】最寄駅から徒歩15分、駐車場47台分
経営革新計画との出会い
店長を務めていたA社社長のご子息(後継者)は、経営に関する知識・スキルを向上させ、業績を向上させるために行政機関主催の経営者向けセミナーを受講しました。
このセミナーのテーマが「経営革新計画」でした。経営革新計画とは一言で表現すると「都道府県に完成度を審査していただく新規事業の計画」です。詳しくは以下のコラムを参考にして下さい。
経営革新計画の書き方1:経営革新計画とは
セミナー終了後に開催された専門家との個別相談会に参加したA社店長は専門家の力を借りながら経営革新計画の策定を行うこととしました。
現状の分析
計画策定の際は、まず自社の現状を分析しますが、この際に用いられる考え方としてSWOT分析があります。
SWOT分析は、まず自社の内部環境には、どのような強み (Strengths)と弱み (Weaknesses)があるのか、また、自社の外部環境には、どのような機会 (Opportunities)と脅威 (Threats)があるのか、洗い出しをします。
これら4つの頭文字をとって「SWOT」分析と呼びますが、これらを洗い出した上で次の一手を見出していくことになります。現状の洗い出しについて、詳しくは以下のコラムを参考にしてください。
経営革新計画の書き方3:内部環境分析
経営革新計画の書き方4:マクロ環境分析
経営革新計画の書き方5:ミクロ環境分析
では、当時のA社におけるSWOTはどうなっていたのかを見ていきます。
【強み:内部環境で好ましい傾向】
・業歴が長いため、コアな顧客が存在するとともに、有名芸能人が無名の頃に買い物に来ており、同社店舗の名前を出して、その頃の思い出話をテレビ番組で打ち明けたりすることがあり、存在感が強い。
・また、付き合いの長い仕入先も多数存在し、関係性が構築されている。
・商品別の各部門に仕入から販売までの権限と責任が与えられており、担当者の裁量による小回りの利く仕入・販売が可能である。
・50代以上のミセス向け衣料の品ぞろえが充実している。
【弱み:内部環境で好ましくない傾向】
・長年トップダウンでマネジメントをしてきており、従業員から改善・改革の提案が出にくく、催事などがマンネリ化している。
・過去の成功体験から、安売りかつ待ちの商売という体質や、組織内の縦割り意識が強く、部門間の連携が弱い組織風土がある。
・顧客の要望を深く吟味することなく商品を仕入れ続けた結果、需要の少ない在庫が増えてしまい、効率性が低下している。
・小規模であるがゆえに仕入を行う際に規模の経済性が発揮しにくい。
・店舗の老朽化が進んでいるとともに、売り場の通路幅が狭い。
・若年の顧客層に自店の魅力を訴求できず、流出を招いている。
【機会 :外部環境で好ましい傾向】
・同社が立地している自治体には、市内2つめの新駅が完成し、人口は増加傾向である。
【脅威 :外部環境で好ましくない傾向】
・周辺には、同じような品揃え・規模のチェーン店舗が複数立地し、衣料品に関しては全国規模のチェーン店も存在している。
・車で10分弱の場所に国内はもとより、アジア有数規模のショッピングセンターが立地している。
・返品無料をうたった衣料品のネット通販が台頭している。
・最新の流行を取り入れながら低価格の衣料品を短サイクルで大量生産・販売するファストファッションが台頭している。
現状分析は、次の一手を検討する重要な作業です。ここをないがしろにしてしまって計画を立てても「絵に描いた餅」になってしまいます。じっくり時間をかけて洗い出しをしていきましょう。次回のコラムでは、これを踏まえて、新規事業のテーマをどう見出していったかを見ていきます。
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