顧客を囲い込み、油外商品の販売で生き残るガソリンスタンドとは

客単価向上

長いお付き合いを意識する

 タイヤやエンジンオイルなど、燃料に使う油以外の商品を油外商品と言いますが、ある油外商品の販売に成功した時は、次の油外商品の販売活動の始まりです。しかし、この時点で、かさにかかって、あれもこれもとその場で売ろうとするからガソリンスタンドの油外販売は「押し売り」と非難されるのではないでしょうか。

 顧客には顧客の都合があります。ガソリンスタンドの都合の元、顧客の不安をあおり、多額のお金を落とさせることは商売の本質を考えた場合、問題はないのでしょうか。

 昔、あるウイスキーメーカーのコマーシャルで用いられた「少し愛して、なが~く愛して。」というキャッチフレーズが流行したことがありましたが、油外商品の販売ができたら、それを長いお付き合いの始まりにすることが、生き残るガソリンスタンドのポイントなのではないでしょうか。

 今回のコラムでは、そのような中長期的なお付き合いをしていくための具体的な方法を見ていきます。

タイヤを売りっぱなしにしないガソリンスタンド

 あるセルフサービスのガソリンスタンドは、タイヤ販売に注力していました。その販売手法は、奇をてらったものではありません。来店客が給油中に、空気圧点検の声掛けをして、擦り減ったタイヤを探すだけです。
 ただし、空気圧点検の台数が非常に多いため、擦り減ったタイヤもたくさん見つかり、タイヤが売れていきました。

 タイヤを交換する際は、タイヤをホイールごと車両から取り外しますが、そのために、このホイールと車体を留める役割を果たしているホイールナットを外します。そして、車体から外したホイールに付いている古いタイヤをホイールから外し、新品のタイヤを組みつけ、これをホイールナットで車体に留めます。

 この際に、しっかり締め付けたつもりであっても、しばらく走行するとホイールナットが緩んでしまうケースがあります。また、タイヤを新品に交換すると、膨らました風船が萎むように、間もなく空気が減っていくケースがあります。

 そこで、この店舗では、新品のタイヤに交換していただいた顧客に「タイヤ点検カード」を渡し、これを次回ご来店時に提示していただくと、ホイールナットの緩み点検やタイヤの空気圧点検を無料で実施します。

 この「タイヤ点検カード」の回収率が非常に高く、同店でタイヤを交換した顧客のほとんどが、このカードを持って来ます。ここで、ホイールナットや空気圧の点検をして終わらせてしまうのは、非常にもったいないのですが、では、その次に繋げるにはどのような取組みができるでしょうか。

スタンプカードの活用例

 顧客の固定化策としてスタンプカードを導入している店舗があります。この場合、〇円お買い上げで1スタンプを押印し、全部のスタンプ欄が埋まると特典が付与されます。

 前述のガソリンスタンドは、タイヤの空気圧点検により、すり減ったタイヤを探し出してタイヤ販売を実施していました。よって、現時点ですり減っていなくても、いずれタイヤはすり減りますから、タイヤの空気圧点検を継続し続ければ、すり減った段階で販売のアプローチが可能となり、タイヤが売れる可能性が高まります。

 そこで、渡している「タイヤ点検カード」の裏面をスタンプカードにし、タイヤの空気圧点検1回でスタンプを1個押印し、全て埋まるとタイヤの割引が適用される特典を付与します。なお、このスタンプカードを活用する際のコツがあります。

ゴールにどれくらい近づいているのか

 コロンビア大学ビジネススクールの研究で、あるコーヒーショップで2種類のスタンプカードを用いた実験を行いました。

 ひとつのポイントカードは、コーヒーを1杯飲むごとにスタンプが1個押印され、10個貯まるとコーヒーが1杯無料となります。
 もうひとつのポイントカードも、コーヒーを1杯飲むごとにスタンプが1個押印されますが、12個貯まるとコーヒーが1杯無料となります。ただし、予め2個スタンプが押してあります。

 これは、前者が進捗率ゼロの状態でスタンプカードを渡されるのに対して、後者は12分の2の進捗がある状態でスタンプカードを渡される、ということです。
 どちらも10杯飲むと1杯無料なのですが、後者のポイントカードを渡された顧客は、前者のポイントカードを渡された顧客よりもはるかに多く無料のコーヒーを手に入れたという結果が出ました。

 人は、ゴールが見えそうになるとモチベーションが向上します。よって、このパターンを取り入れた空気圧点検のスタンプカードを活用すれば、効果は見込みやすいでしょう。

 このように、顧客を囲い込み、油外商品の販売で生き残るガソリンスタンドとは、根拠に基づいた囲い込む仕組みを持っているものです。貴社の取組みの参考にしていただければ幸甚です。

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