1.顧客と従業員の心理を考慮しなかったために…
(1)タイヤの空気圧点検を有料化したきっかけ
そのガソリンスタンドは、それまで店舗スタッフが、給油も窓拭きもその他サービスも行うフルサービス形態でしたが、店舗スタッフは給油のみを行い、窓拭きなどは顧客が行うセミセルフサービス形態に転換しました。
店舗スタッフではなく顧客が給油をするセルフサービス形態に転換すると、改装費用が嵩みますが、給油を店舗スタッフが行うのであれば、改装費用はほとんどかからないこと、給油のみのサービス提供なので配置するスタッフ数も少なくて済み、人件費負担が軽くなる、というのがセミセルフサービス形態に転換した理由でした。
これと同時に、タイヤの空気圧点検もセルフサービスとしました。そして、店舗スタッフがタイヤの空気圧点検をする場合は1台100円に有料化しました。これは少ないスタッフ数の中、スタッフが作業をするならそれに見合う対価を設定しようという考えがありました。しかし、これが裏目に出るのです。
(2)有料化したタイヤの空気圧点検がもたらしたもの
タイヤの空気圧点検を有料化したことにより、店舗スタッフに空気圧点検を依頼する顧客は、ほぼゼロになりました。反面、タイヤの空気圧点検を顧客自身が行うので、その作業方法を教えて欲しいという要望が激増し、スタッフはその対応に追われるようになりました。
それだけでなく、タイヤの販売数量が激減しました。それまでは、タイヤの空気圧点検を無料で店舗スタッフが実施していたため、空気圧点検をしながら摩耗や劣化したタイヤをスタッフが見つけ出し、顧客へ交換のお勧めができました。
ですが、この店舗スタッフによる空気圧点検をきっかけとしたタイヤの摩耗や劣化点検作業は、顧客が100円を支払って空気圧点検を依頼しない限り、行うことができなくなりました。空気圧点検をせずとも給油中にタイヤを覗き込んで目視点検をすることは可能ではありますが、顧客が自車の窓拭きなどを行っている状況でそれをすることは、顧客の目が気になり、スタッフにとって心理的な抵抗があります。
結果として、タイヤを販売しにくくなり、このガソリンスタンドの客単価は大きく下落してしまいました。
(3)なぜタイヤの空気圧点検をスタッフがするべきなのか
タイヤの空気圧点検を行うことは、空気圧だけの点検に留まらず、タイヤの摩耗・劣化状況を点検することができます。それはタイヤの販売機会を得る、ということです。
タイヤはガソリンスタンドが扱う商品の中でも高額の部類に入ります。よって、タイヤを大量販売する店舗は客単価が高く、収益性も比較的良好なケースが多いと言えます。そこで、収益性を向上させたいのであれば、タイヤの空気圧点検は店舗スタッフが行う必要があると言えるでしょう。
タイヤの空気圧点検を有料化したそのガソリンスタンドの経営判断は、顧客満足の視点を欠いたものであり、結果として収益性を低下させるという悲劇を生んでしまったのです。
ガソリンスタンドに限りませんが、セルフサービスを導入しているロードサイド店舗では、なぜその作業は顧客が行った方が良いのか、その作業を店舗スタッフが行うことで顧客満足度が向上し、収益性に繋がるのではないか、という発想で今一度検証してみてはいかがでしょうか。
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