洗車プリペイドカードの安売りがガソリンスタンドの生き残りを妨げる理由

戦略の考え方

1.洗車プリペイドカードの安売りがガソリンスタンドの生き残りを妨げる理由

 多くのセルフサービス型ガソリンスタンドでは、顧客が自分で洗車機を操作し、車両に乗ったまま洗車ができるドライブスルー洗車機を設置しています。洗車代金はその都度支払うこともできますが、前払い制度として、プレミアムバリューを得ることの出来るプリペイドカードも販売している場合もあります。

 例えば、2,000円のプリペイドカードを購入すると2,200円分の洗車が出来る場合は、支払い額の1割相当である200円のプレミアムバリューが付いています。また、5,000円のプリペイドカードを購入すると6,000円分の洗車が出来る場合は、支払い額の2割相当である1,000円のプレミアムバリューが付いています。

 このように、プリペイドカードに対する支払金額が高額になればなるほど、プレミアムバリューが大きくなるのがプリペイドカードの特徴です。今回のコラムでは、この洗車プリペイドカードを安売りすることがガソリンスタンドの収益向上に弊害をもたらす理由について、事例を通じて見て行きます。

洗車プリペイドカードの安売りがガソリンスタンドの生き残りを妨げる理由(1)プリペイドカードの単価が低くなるから

 ガソリンスタンド業界では、タイヤやオイルなどガソリン以外の商品を油外商品と呼び、それらからもたらされる収益を油外収益と呼びますが、あるガソリンスタンドでは毎月毎月、油外収益の販売目標が未達であることが悩みの種でした。そこである日、この洗車プリペイドカードを半額で販売してみたところ、多くの顧客が購入して下さいました。

 これに味をしめた同店は、販売が厳しい場合(大体いつも厳しいのですが)に、この半額セールを実施するようになり、油外収益の月間目標をクリアするようになりました。しかし、その数ヶ月後に同店の洗車収益は大きく落ち込み、油外収益の月間目標はまたまた未達になりました。

 洗車プリペイドカードを販売すると、その時点で売上が計上されますが、その金額は通常の半額であり、洗車プリペイドカード自体の単価が低くなってしまったからです。これは安売りする以上、当然のことですが、これにより次の弊害も生まれます。

洗車プリペイドカードの安売りがガソリンスタンドの生き残りを妨げる理由(2)無料洗車の割合が高まってしまうから

 洗車プリペイドカードを販売する目的のひとつに顧客の固定化が挙げられます。顧客がプリペイドカードを購入することにより、店舗側は再来店が見込めますからプレミアムバリューを付けます。金額の大きなプリペイドカードは、再来店の回数が大きく見込めるため、大きなプレミアムバリューを付けることとなります。

 このプリペイドカードを半額で販売することは、プレミアムバリューが過大になることを意味しています。通常価格5,000円、利用できる金額6,000円の洗車プリペイドカードは、前述したとおり、プレミアムバリューが1,000円、支払額に占めるプレミアムバリューの割合は2割です。

 これを半額の2,500円で販売した場合、支払額に占めるプレミアムバリューの割合は4割であり、売上に対する無料洗車の割合が倍になってしまいます。

洗車プリペイドカードの安売りがガソリンスタンドの生き残りを妨げる理由(3)「売れ続ける仕組み」に目が向かないから

 販売に携わる者としては、売上が上がると嬉しいものですが、重要なことは目先の売上を得ることよりも、売れ続ける仕組みを作ることでしょう。そこに目を向けず、半額で販売してしまうのは、目先の油外収益目標さえクリアすれば良いという、短期的視点に陥ってしまったことに他なりません。その場しのぎの販売では、明日以降の売上に目が向きませんから、明日以降もその場しのぎの販売となり、売れ続ける仕組みは構築できないでしょう。

 洗車プリペイドカードを半額で販売したこのガソリンスタンドの背景にあったのは、本社の過剰なまでの締め付けでした。複数店舗を展開していた同社の店長会議では、油外収益の販売予算を達成できない店長を吊し上げるとともに、本社は日々店舗へ電話をして罵倒していました。そのような本社の姿勢から逃れるために、その場さえよければそれでいい、という現場の考えが生まれたのでしょう。

 洗車プリペイドカードの安値販売が洗車収益の激減を招いた事態を把握したこの企業の経営陣がとった対応は、洗車プリペイドカードの安値販売を禁止しただけでした。しかし、それ以上に重要なことは、なぜ店長がそのようなことをしたのかを考え、その対策を打つことです。

 本社が、中長期的視点で物事を考えない限り、ただでさえ短期的視点に陥りがちな現場が中長期的視点で物事を考えることはないはずです。吊し上げや罵倒を改め、その場しのぎの販売でなく、中長期的に儲かる店舗にするにはどうすれば良いのか、店長に考えさせたり、一緒に考えたりすることが重要なのではないでしょうか。

 今回のコラムでは、洗車プリペイドカードの安売りが危険な理由として(1)プリペイドカードの単価が低くなるから、(2)無料洗車の割合が高まってしまうから、(3)「売れ続ける仕組み」に目が向かないから、を挙げました。安易な安売りで自店の首を絞めないように留意していきたいところです。

2.当コラムの動画解説

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