柔軟なルール運用のできない飲食店が高い客単価を得られない理由

戦略の考え方

 コンビニエンスストアやデパートの地下食料品売り場で提供するお惣菜のレベルが高まり、テイクアウトをして自宅で食べる中食需要が盛況です。さらに今年10月には消費税率が10%になるとともに、軽減税率が導入されます。

 これにより、コンビニやデパ地下で提供されるテイクアウトのお惣菜における消費税率は8%に据え置かれるのに対して、飲食店でのイートインにおける消費税率は10%となり、外食産業には、さらなる逆風が吹くことになります。

 そのような中、飲食店の業績低下への対策のひとつとして、店内ルールの存在意義の確認や、ルール運用の見直しが挙げられます。もしそのルールにちゃんとした存在意義があるならその意義を、運用方法を見直したらその方法をアルバイトスタッフ含め全員で共有する必要があります。

 今回のコラムでは、ルール運用の不手際により、確保できたはずの売上高を逃してしまった居酒屋の事例を用いて、業績を低下させないための対策を見ていきます。

ゴールデンウイーク中の居酒屋

 10連休のゴールデンウイークも今日で8日目となりましたが、その6日目に私がかつてガソリンスタンドの運営会社に勤務していた頃の先輩に誘われ、当時のメンバー5名が集まり、都内の居酒屋で飲み会をしてきました。

 私は都合により、飲み会開始時刻の1時間半後に合流することになりました。飲み会がセッティングされたその居酒屋に到着し、久々に会う先輩方と乾杯をして間もなく、ある先輩が「あと30分でお店を変えないと」と言いました。聞くと、その居酒屋は、ゴールデンウイーク中は、1グループ2時間で退店しなければならないルールなのだとのことです。

 ゴールデンウイークは店舗の混雑が予想され、多くのお客様に同店の利用をしていただきたいから、という趣旨でそのようなルールを設けているのでしょう。

 ほどなくして、2時間が経過し、店舗スタッフが退店を促すべく、私たちが飲んでいるテーブルに会計のお願いをしに来ました。この時、店内には空席もあったことを見据え、私たち飲み会メンバーのリーダー格の先輩が店舗スタッフに言いました。

納得できないそのルール

 「会計をしたら、このまま飲んでていいですか?」

 リーダー格の先輩が発したこの質問は、的を射ていると思いました。店舗が混雑しており、席が空くのを待つ顧客がいるのならともかく、空席が目立つ店内状況では、私たちが居続けた方が、さらにオーダーが入り、客単価が上がるという店舗側のメリットがあります。他方、私たちは、次の店を探す手間も省けるというメリットがあり、双方にとって良いことのはずであるからです。

 先輩のこの質問を受けた店舗スタッフは「ちょっと確認してきます」と言って、厨房へ下がりました。ほどなくして私たちのテーブルに戻ったこのスタッフは「やはり、ルールはルールなので…」という回答でした。

 なおも食い下がろうとする先輩を止めて、店を変えることにした私たちは、ほどなくして別の手ごろな居酒屋を見つけ、そこで飲むことにしました。こちらの居酒屋は、ゴールデンウイーク中は、2時間半で退店するルールなのだそうです。

 ところがこの居酒屋のその後の対応は、1軒目の居酒屋のそれとは違っていました。

状況に合わせたルール運用

 2軒目に移動した飲み会が盛り上がる中、ふと入店してからどのくらいの時間が経ったのかが気になりましたので、店舗スタッフに訊いたところ、以下の回答が返ってきました。

 「あと30分で2時間半が経過しますが、待っているお客様がいなかったら、このままゆっくり飲んでてください」

 1軒目とは真逆の対応です。その後30分経過しても、入店するべく待つような顧客もおらず、当然、私たちは、お酒なり料理の追加オーダーをしたので、客単価は向上し、店舗の業績も上がったはずです。

 なぜ、2時間なり2時間半なりで退店しなければいけないというルールがあるかというと、前述の通り多くのお客様に同店の利用をしていただきたいからであるはずです。そして、その理由は店舗の業績を大きくしたいという目的・目標に直結しているはずです。

 よって、そのルールを運用することにより、業績に良い影響を及ぼすのであれば、それで良いのでしょうが、そのルールを運用することにより、業績に悪い影響を及ぼすのであれば、ルール自体を見直すか、ルールの運用方法を検討する必要があります。

 ここで意識したいのは、ルールを守ることが目的ではなく、ルールは目的・目標を達成する手段だということです。柔軟なルール運用のできない飲食店が高い客単価を得られない理由として、この目的・目標の置き換えにより、顧客の満足度を下げてしまうため、と言えるでしょう。

 逆風が強くなりつつある飲食店の経営者・店長は、店内のルールを今一度洗い出し、そのルールが顧客満足の醸成や業績の拡大に寄与しているかを検討する必要があるでしょう。消費税率が上がり、閑古鳥が鳴くようになってしまってからでは遅いのです。

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