複数のガソリンスタンドを運営する企業の傘下にある店舗での出来事です。その日の店頭は結構混雑しており、給油している車両の後ろに順番待ちが発生している状況でした。
そのような中、給油を終えた顧客が車両をその位置に停めたまま、待合室内のトイレに行きました。順番待ちをしている車両内の顧客はそれを見て苛立っていました。レジ近辺にいる店舗スタッフは見て見ぬふりです。
また、そのような混雑状況の中で、給油後に車両に乗り込み、スマホをいじってなかなか出発しない顧客もいます。当然、後ろで待っている顧客は苛立ちますが、スタッフはやはり注意をしません。
当然、店舗の雰囲気は良いものではありません。このガソリンスタンドはセルフサービスであることを錦の御旗として、全て顧客任せというスタンスを取っていました。このままでは、売上が下がることは火を見るよりも明らかです。
そんな中、人事異動により、店長が交代することとなりました。新たな店長は、このような店舗の状況を見て、タイヤの空気圧点検を積極的に実施し、スタッフにも同様の取組みをさせました。その結果、店舗の雰囲気が良くなり、客単価が大幅に向上しました。今回のコラムでは、この取組みを詳しく見ていきます。
空気圧点検に注力するセルフスタンドの雰囲気が良い理由1:目配りがしやすくなるため
ガソリンスタンドで働いている方は、当然認識しているはずですが、給油中の顧客にエンジンルームの点検や様々な商品をお勧めしても断られるケースが圧倒的です。これに対して、空気圧点検を断る顧客は多くありません。
よって、店舗スタッフとしては安心して顧客に声掛けできますし、それを積極的に行うためには、レジ近辺ではなく給油エリアへ身を置くこととなります。給油エリアに身を置くということは、顧客へさらなる目配りをすることが可能になります。
また、給油エリアに身を置くということは、混雑中に車両の位置をそのままにトイレに行ったり、スマホをいじったりする行為を見て見ぬふりはできなくなります。「なんで注意しないの?」という順番待ちの顧客の目を意識せざるを得ないからです。
よって、車両移動のお願いがしやすくなるとともに、次の理由により、顧客はそのお願いを受け入れやすくなります。
空気圧点検に注力するセルフスタンドの雰囲気が良い理由2:小さなイエスが次のイエスを引き出すため
前述の通り「空気圧点検いかがですか」と聞くと「はい、やってください」と答える方がほとんどです。この場合、持ち運び可能な空気圧点検の機械(エアーフィクサー)を持ってきて、点検・調整をした後に、結果報告をすることとなります。
その後、給油が終わって車両をその位置に停めたまま、トイレに行こうとしたり、スマホをいじろうとしたりして、店舗スタッフが車両の移動をお願いした場合に顧客は、気分良く車両を移動させることができます。
それは、「空気圧点検いかがですか」に対して「はい、やってください」と小さなイエスを一度引き出されているからです。人は小さなお願いを承諾すると、次のお願いも承諾しやすくなります。
実際問題として、店舗スタッフの顧客に対する正当な指示は、強制力を持っている場合がほとんどですが、そのような権力を匂わせることなく、顧客を店舗側が思っている方向に誘導することが可能となります。
今回のコラムでは、空気圧点検に注力するセルフスタンドの雰囲気が良い理由として、1.目配りがしやすくなるため、2.小さなイエスが次のイエスを引き出すため、を挙げました。この店舗は、空気圧点検に力を入れた結果、店内の雰囲気が良くなったとともに、タイヤも売れるようになり、客単価が向上しました。
セルフサービスのガソリンスタンドが登場した頃は、セルフサービスであること自体が差別的優位性の源泉になりましたが、今はそうではありません。よって、店舗の雰囲気や接客で差別的優位性を構築する必要が高まっていますので、該当する店舗は参考にしていただければと思います。
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