「すいません、釣銭取り忘れたんですけど…」先ほど給油して出ていったばかりの顧客が戻ってきて、憮然とした、本当に憮然とした表情で言いました。目の前にいるのは、セルフサービスのガソリンスタンドで働くスタッフです。
この場合、その取り忘れた釣銭をスタッフが事前に発見・保管しており、返すことができれば、一応問題は収束します。ですが、取り忘れた釣銭を次の顧客が持って行ってしまうこともあります。この場合、ガソリンスタンド側としては、返すべき釣銭がないわけで、取り忘れた顧客としては納得できず、トラブルに発展する可能性があります。
セルフサービスのガソリンスタンドでの忘れものの多くは、給油キャップと釣銭です。しかし、オイルや洗車などガソリン以外の商品である油外商品の販売力が高いセルフサービスのガソリンスタンドは、顧客の忘れものが少ないのです。今回のコラムでは、その理由について見ていきます。
ルーティンの重要性
昨日、アメリカの大統領であるトランプ氏が両国国技館で相撲を観戦しました。同氏の安全を守るため、国技館は厳戒態勢を敷き、その影響で花道までペットボトルの水が持ち込めない事態となりました。
館内の自動販売機も稼働しておらず、付け人が力士に水を飲ませるために右往左往するという一幕もあり、「ルーティンを壊された」と嘆く力士もいたとのことです。
ルーティンとは「決まり切った仕事」を指しますが、野球のイチロー選手が打席に立ってバットを右手で掲げ、ユニフォームの袖を左手でチョンと上げる仕草や、ラグビーの五郎丸選手が、ボールをキックする際に、両手の人差し指をチョンチョンとあわせる仕草などが有名です。
大事なことは、このルーティンという一連の流れを行うことで集中力が高まり、良い結果に繋がるということですが、これが出来ないと逆の結果に繋がりかねません。前述の力士は土俵に立つ前に水を飲むのがルーティンだったのでしょう。
そして、このルーティンというものは、セルフサービスで給油する顧客にも当てはまります。
セルフ給油のルーティンとは
そのガソリンスタンドによって、流れが違うケースもありますが、私が勤務していたセルフサービスのガソリンスタンドは、以下のルーティンで顧客がガソリンを給油していました。
①入店後、所定の位置に車を停める。
②操作パネルで油種・給油量・支払方法を選ぶ。
③支払方法が現金の場合はお金を、クレジットカードの場合はカードを入れる。
④給油キャップを外し、給油ノズルを手に取り、給油をする。
⑤給油を終えたら給油ノズルを元の位置に戻し、給油キャップを締める。
⑥釣銭、レシートを取り、退店する。
ところが、このルーティンが壊されることがあります。
ルーティンが壊れた結果
ガソリンスタンドは油外商品を販売して収益を得ようとします。そこで、上記の④の段階、つまり給油中に「タイヤの空気圧点検をしましょうか?」、「当店のチラシです。給油中に読んでください」など顧客にアプローチをしに行きます。
これにより、顧客のルーティンが壊されます。その結果として、いつもは行うはずの⑤や⑥を失念する可能性が高まります。④の次は⑤、その次は⑥なのです。しかし、④の次に「店舗スタッフとのやり取り」が入ることで、その次の⑤を失念しやすくなります。
かろうじて⑤を失念しなかったとしても、ルーティンが壊されていますので、⑥を失念する可能性もあります。つまり①~⑥の流れはひとつのセットになっている、ということです。
ですが、顧客へのアプローチをしないことには油外商品は売れません。キャップ忘れや釣銭の取り忘れは防ぎたい、だけど油外商品は売りたい。どのようにすればこれらを両立できるのでしょうか。
壊したらフォローする
顧客のルーティンを壊したことを理解しているガソリンスタンドのスタッフには、壊されたルーティンを抱えた顧客をフォローする気配りがあります。例えば、「タイヤの空気圧を点検しましょうか?」と言って点検をした後は、点検結果の報告とともに、「給油キャップ、レシート、釣銭は大丈夫ですか?」の一声があります。
これによって顧客は「店員が声を掛けてこなかったら釣銭の取り忘れをしなかったのに!」という拳が震えるような不満足感を抱くことがなくなり、油外商品を購入する可能性が高まります。
販売力の高いセルフスタンドに忘れものが少ない理由は、スタッフが顧客はなぜ忘れるのかを理解し、それをフォローする気配りがあるため、と言えるでしょう。これは、売りたい自分に関心が向いているのではなく、買っていただく顧客に関心を向けているから、と言い換えることが可能です。
このコラムをきっかけに「すいません、釣銭取り忘れたんですけど…」がなくなり、繁盛するガソリンスタンドが増えることを祈っています。
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