美容院を新規にオープンさせてから数年経過し、ある一定の顧客を掴むと、さらに集客力を高めたくなります。そこで、これまで来店されなかった顧客を対象に、様々な販促策を展開しようとしますが、これにより、新規顧客の集客はできても既存顧客が離れていったり、そもそも新規顧客の来店が全くなかったりすることがあります。
今回のコラムは、ある美容院経営者の相談事例を見ながら、既存顧客の離脱を防止しつつ、新規顧客を集客するための3つの着眼点を見ていきたいと思います。
客層を広げたい美容院経営者
ある美容院経営者が発した、以下の悩みに触れる機会がありました。
「現在、若者をターゲットとしたおしゃれな美容院が多く、年配の方々が入りにくいという声を聞くことがあります。
当店の既存顧客は20~30代が圧倒的に多く、その方々の支持は残しつつ、年齢の幅を広げた集客ができたらと思います。
私が考える方法は、①カットモデルを使った看板などで年配顧客向けのカットの提案をする、②年配の店舗スタッフを採用する、といったことですが、これ以外に、もっと良い方法があれば是非教えていただきたいです。」
この美容院経営者は、この2つの手法では効果が出にくいことを感じ取っており、だからこそ相談をしたはずです。そこで、以下の3つの着眼点を示しました。
着眼点1:経営理念
例えば、新築住宅を建てたいと考える人は、家の間取りや内装、雰囲気などを検討します。しかし、これらがどれだけ素晴らしいものであったとしても、建物の基礎部分が脆弱であったら、間取りや内装、雰囲気がどんなに素晴らしくても、家としては不完全なものであると言えるでしょう。
美容院を経営するにあたり、基礎部分に該当するのが、「自店はなんのために存在しているのか」という問いに対する答え、つまり経営理念です。これがあることにより、経営理念に沿った事業展開、販促策の立案がなされることになり、経営にブレがなくなります。
ですが、経営理念は抽象的な考え方になりがちですので、それをより具体化し、事業の骨格を決める必要があります。それが、次に掲げる事業領域(ドメイン)です。
着眼点2:事業領域(ドメイン)
誰に・何を・どのように提供するのか、を決めるということは、ターゲット顧客(誰に)、顧客ニーズ(何を)、差別的優位性(どのように)を明確にするということです。
例えば、既存の事業領域(ドメイン)が、以下だったとします。
・ターゲット顧客(誰に):20~30代の顧客
・顧客ニーズ(何を):安価におしゃれできること
・差別的優位性(どのように):顧客との関係性
これを例えば以下のように新規の事業領域(ドメイン)を立ち上げることも一考です。
・ターゲット顧客(誰に):40~60代の顧客
・顧客ニーズ(何を):高額でもおしゃれになること
・差別的優位性(どのように):スキンケアも含んだメニュー展開
このように事業領域(ドメイン)を設定したら、売れる仕組みを構築するべく、次に示すマーケティング戦略の策定を行います。
着眼点3:マーケティング戦略
マーケティング戦略を策定する際は、製品戦略・価格戦略・チャネル戦略・販売促進戦略を検討します。
美容院が検討するべき製品戦略は、施術メニューです。前述の事業領域(ドメイン)に基づき、年配顧客のニーズを満たすことの出来るメニューを開発します。白髪、髪のコシやボリューム、スキンケアなどの対策がポイントになるのではないでしょうか。
価格戦略については、製品戦略で策定した新メニューの価格設定を行いますが、同業他社の価格調査をした上で、価格設定を検討します。前述で例としてあげた事業領域(ドメイン)では、多少強気の価格が設定できるはずです。
チャネル戦略は、どこで事業領域(ドメイン)を展開するか、という観点です。今回の事例では、店舗で提供することになりますので、特に深掘りする必要はないでしょう。
販売促進戦略は、顧客を呼び込むプル戦略と、呼び込んだ顧客の客単価を向上させるプッシュ戦略に分かれますが、今回の事例における経営者は年配顧客を呼び込むことを課題としていますので、プル戦略を深掘りすることとなります。
ここでのプル戦略は広告を検討しますが、年配顧客の集客を狙うのであれば、ネット広告よりも紙媒体の広告の方が効果的である可能性が高まります。
なお、ある美容室では、ネット予約のメニューの他に、電話予約限定のメニューを設定しており、後者は年配顧客向けのメニューとなっています。
例えば「40代以上限定メニュー」としてしまうと、利用に抵抗を感じる顧客がいるかもしれません。年配顧客は、ネットよりも電話での予約が多いことから、そのような顧客が好みそうなメニューを電話予約限定メニューとして提供しているのです。
また、プル戦略で、今回の事例で経営者が考えている「カットモデルを使った看板などで年配顧客向けのカットの提案をすること」の費用対効果も検討することとなります。
新規顧客を集客できる美容院が持つ3つの着眼点として、1.経営理念、2.事業領域(ドメイン)、3.マーケティング戦略、を取り上げました。新規顧客の集客策を検討する際は、新たな思いつきに走ることなく、事業の土台からしっかり見つめ直す必要があるでしょう。
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