組織の原理原則を無視したガソリンスタンド運営会社の行き着く先

転勤の打診

 複数県においてガソリンスタンドを運営するその企業は、都内に本社を置き、各県に支店を配置していました。支店が地域本部の役割を果たし、傘下の複数店舗を管理監督する、という形をとっていました。

 支店には、支店長、次長、課長、係長の他に事務員が配属されており、支店に管轄される各ガソリンスタンドには、店長、主任、一般社員が配属されている組織構成です。

 ある日、X県X支店管轄のガソリンスタンドa店に支店の次長が突然訪れ、一般社員1名1名と面談を行いました。突然の話なので店長はうろたえながらも、次長の要請で各人との面談に立ち会うこととなりました。

 次長が各人に話したのは、X支店が管轄するb店の人材が不足しているので、転勤してくれないか、という話でした。本来は、支店→店長→一般社員、といった流れでそのような話を通すべきですが、次長は店長を飛び越して一般社員に直接話を持ちかけただけでなく、即答を求めました。

命令統一性の原則

 組織運営において適用される原則の1つに「命令統一性の原則」があります。これは、各組織構成員は常に特定の1人の上司からだけ命令を受けるようにしなければならない、というものです。これを無視するということは、命令系統が錯綜し、組織は混乱に陥ることとなります。今回の事例では、次長が命令統一性の原則を無視しています。

 さて、この面談で、ほとんどの一般社員が転勤を拒否したわけですが、ある若手社員がその転勤をその場で快諾しました。次長が退店した後に、店長は「なぜ次長に直接転勤してもいいと回答したのか。なぜ私を通さないのだ」と怒り狂い、その若手社員を叱責しました。

 この叱責が的外れであることは自明の理であり、もし叱責するなら、転勤に応じると直接回答した一般社員以外の、転勤に応じないと直接回答した者も叱責されるべきです。なぜなら、彼らも店長を通した回答をしていないからです。

 そもそも、部下を叱責するより、部下に即答を求めた上司の次長と掛け合うことをしなかったことに、この店長を含めた企業の問題が見え隠れします。

組織風土を変える

 この企業は、支店は権限を振りかざして現場を荒し、現場は盲目的にそれに従うという組織風土がありました。前述の転勤に応じた若手従業員は、そのような風土に翻弄された結果、数ヶ月後に退職しました。
 また、その店長は、顧客から集金したお金を売上に計上するという不正を行い、会社を追われました。そして、今やその企業は他社に買収され、存在していません。

 組織の原理原則を無視したガソリンスタンド運営会社の行き着く先は、離職や不正が相次ぎ、結果として消滅してしまう、ということです。

 ところで、そのような風通しの悪い組織風土になってしまった場合の対策としては、どのようなものがあるのでしょう。

 今回取り上げた企業とは別のある企業の経営者は、似たような組織風土に直面し、社長室のドアを常時開放することにしました。言いたいことがあったら、だれでも入ってきて何でも言いなさい、というメッセージを物理的に示したのです。何でも言いなさい、と言うことも重要ですが、物理的に変化を起こすことも重要な取組みだと考えます。

 また、経営層に属する役職者自身が、現場に対して積極的に自己開示を行うことも風通しを良くすることに繋がります。これに関しては以下のコラムを参考にしてください。
 ■傾聴力とリーダーシップ

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