東京女子医科大学病院が、新型コロナウイルスの影響で業績が悪化したことを受け、夏のボーナス不支給を労働組合に伝えました。これを受け、同病院の看護師が大量に退職することが危惧されています。ここでいう「大量」とは400人規模に上るとされ、もしそうなると地域医療が崩壊してしまいます。
看護師の方々は、新型コロナウイルスの感染リスクを負いつつ、通常以上に身を粉にして働いたのに、賞与の不支給によりそれが報われないと解釈することもできます。ですが、この看護師の方々に対して、経営陣や管理職のねぎらいや感謝の言葉で報いれば退職を防止することが可能です。今回のコラムではその理由をご紹介します。
1.毎年の賞与が払えない!それでも「言葉」が退職を防ぐ理由
(1)モチベーションの源泉とは
アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグ氏は、人のモチベーションは何によって高まるのかを実証研究で明らかにし、この結果を「動機づけ=衛生理論」として公表しました。下図は同理論の概念図です。
この理論では、人間のモチベーションは「ゼロ」からスタートするとしています。そして、仕事をして満足感を得た場合にモチベーションはプラスの領域へ進み、積極的態度が引き出されます。これを「動機づけ要因が満たされている状態」と定義しました。
反面、仕事をして不満足感を得た場合にモチベーションはマイナスの領域へ進み、消極的態度が引き出されてしまうとしています。これを「衛生要因が満たされていない状態」と定義しました。これら衛生要因、動機づけ要因の具体例は以下となります。
冒頭で取り上げた東京女子医科大学病院の看護師の方々は、給与や労働条件という衛生要因が満たされておらず、業務継続のモチベーションが下がり、退職を考えていると言えます。しかし、ハーズバーグ氏の上述の理論からは、これを改善させてもモチベーションが大きく上がるわけではないということができます。
(2)衛生要因を充足させても…
ハーズバーグ氏は、衛生要因を充足させるとモチベーションのマイナス幅が小さくなるものの、これが目一杯小さくなってもプラスマイナスゼロの状態に留まり、プラスの領域に進まないことを実証研究により明らかにしました。
例えば今回、同病院は賞与の不支給を通達しましたが、では、賞与を出しさえすれば、同病院に勤務し続けるモチベーションが高まるかと言うとそうではないといえます。なぜなら毎年支給しているため、不支給はモチベーションが低くなりますが、支給は当然だからです。よって、賞与をいただいくことで「この病院でもっと頑張ろう」とは思いにくいということです。
その衛生要因を提供できなければ、モチベーションが低くなりますので、代わりに動機付け要因を充足させて、この病院で働き続けようというモチベーションを高める必要があります。
(3)動機付け要因の充実によりモチベーションが上がる理由
動機づけ要因に共通するのは「もっと認められたい」「もっと達成感を味わいたい」「もっと大きな仕事を任せられたい」といった形で、天井感がないということです。衛生要因も動機付け要因も報酬ですが、もらっても、もらっても、もっと欲しくなるのは動機付け要因だということです。
よって、もらって当たり前の衛生要因よりも、もっともっと欲しくなる動機付け要因を充足させることでモチベーションが向上すると言えます。そこで、看護師の方々個人個人に経営陣が興味をもって、ねぎらいや感謝の言葉をかけることは、動機付け要因のひとつである「承認」が充足されることとなります。
つまり、衛生要因で報いることが困難な場合、経営陣や管理職のねぎらいや感謝の言葉で報いることで退職を防止できる理由は、動機付け要因の「承認」が充足されるためです。
報じられている、看護師の方々が足りなければ補充すれば良いという同病院のスタンスとは正反対のスタンスで接することで退職を防止する可能性が高まることに留意して自社の従業員の定着率を高めていきましょう。
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