ある美容室では、初来店の顧客にカウンセリングシートを記入していただきますが、その項目の中で「当店のスタイリストに話しかけられたいですか」という質問項目があります。これに対して、顧客は「話しかけられたい」「場合によっては」「話しかけられたくない」といった項目から選ぶこととなります。
渋谷ヒカリエに出店している化粧品店CLINIQUE(クリニーク)では、顧客が入店時に、白・ピンク・グリーン3色のブレスレットのいずれかを着けます。白は急いでいるから早く買い物を済ませたい、ピンクは自分で自由に買い物をしたい、グリーンは接客を希望する、という意味を示します。
立川高島屋では、希望する顧客には、S.E.Eカードというネックストラップ付きカードを渡しています。なお、S.E.Eは、サイレント=静かな、イージー=ゆったりとした、イーチ=おのおのを意味しており、このカードを下げた顧客に対して店員は「いらっしゃいませ」の挨拶以外は、アプローチをしないこととなっています。
このように、話しかけられたくない顧客の見極めをする店舗があるわけですが、今回のコラムでは、なぜ顧客は話しかけられたくないのかを検証し、より良い接客を考えてみたいと思います。
顧客が店員に話しかけて欲しくない理由1:ペースが乱されるから
「ちょっと気になる商品が店頭にあったので、入店してみたら、店員に付きまとわれちゃって、早々にお店を出てきちゃいました…」
このようなケースは、店員が顧客のペースを完全に乱しており、顧客としては当然、話しかけて欲しくない、と感じます。まず、顧客のペースを店員として読めないのなら、話しかけないことです。
このような店員に多いのは、コミュニケーションは言葉だけで行うもの、という認識を持っていることです。これは、聴覚に頼ったものであり、視覚・触覚・嗅覚などをフル活用することにより、ちゃんとコミュニケーションはとれるものです。
顧客が店員に話しかけて欲しくない理由2:興味のない話に付き合わされるから
「美容室で寝たいと思っていたのに、スタイリストがあれこれ話しかけてきて眠ることができなかった…」
寝たいと思っていても、眠気を吹き飛ばすほど興味のある話をしてくれればそれに越したことはありません。ですが、寝たいと思っていても寝させない話は、大体が顧客にとって興味のない話です。
これは、店員のベクトルが自店もしくは自分に向いていることを意味しており、顧客の立場を無視しています。よって、顧客のしぐさや口調などから、顧客の興味を感じ取ることが重要です。そのためには察知力が重要となります。
弊社では「立地より察知」とよく言いますが、ネット店舗と比較したリアル店舗の強みは、顧客とリアルに相対することが出来るということです。そこから察知できることを接客に活かすことが重要です。
顧客が店員に話しかけて欲しくない理由3:売り込まれるから
「あそこの店、入店したら買わなきゃいけないムード満載で、あまりにも店員がしつこくて、買う気の無かったものを買わされた…」
店舗は顧客の買い物を不幸なものにしてはいけません。そのためにコミュニケーションが存在しますが、店舗サイドとしては、「買いやすくする」ために「コミュニケーション」をとろうとします。
ですが、「買いやすくする」と「コミュニケーション」をとるの間には「相互理解」を挟む必要があります。つまり、コミュニケーションをとることで、お互いが分かりあい、商品・サービスを買いやすくする、ということです。
売込みを前提としたコミュニケーションは、相互理解を進めることが困難となります。まずは、お客様のことを理解するためのコミュニケーションである、ということを意識し、その結果、話しかけられたくないということが理解できたなら、自由に売り場を見てもらうのが販売のプロと言えるのではないでしょうか。
今回のコラムでは、顧客が店員に話しかけて欲しくない理由として、1.ペースが乱されるから、2.興味のない話に付き合わされるから、3.売り込まれるから、を挙げました。昨今の消費者は以前と比べて、繊細になっています。店員も顧客の繊細なニーズを掴むべく鋭敏な感性が求められていると言えるでしょう。
鋭敏な感性を得る・育てるために、日常の接客でそのような感性が発揮できた成功事例、逆に顧客に疎まれた失敗事例をアルバイトスタッフ含めて情報共有することが重要です。そのためには、店舗内のコミュニケーションが重要になることに留意したいところです。
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