想像してみてください。
あなたは、森の中で木を倒そうと一生懸命ノコギリをひいている木こりに出会ったとします。
「何をしているんですか」とあなたが訊きました。
すると「見れば分かるだろう」と無愛想な返事が返ってきました。
「この木を倒そうとしているんだ」
見るとノコギリの刃は、さび付いており、刃先も丸くなっています。
「すごく疲れているようですが、いつからやっているんですか」あなたは大声で尋ねました。
「かれこれもう5時間だ。くたくたさ。大変な作業だよ」
「それじゃ、少し休んで、ついでにそのノコギリの刃を研いだらどうですか?そうすれば仕事がもっと早く片付くと思いますけど」とあなたはアドバイスをしました。
ところがその木こりは「刃を研いでいる暇なんてないさ。切るだけで精一杯だ!」と強く言い返しました。
『7つの習慣』第七の習慣「刃を研ぐ」より引用、一部改編
ノコギリの刃を研いでから木を切った方が早く切れるはずなのに、この木こりは何を考えているんだろう?と思った方もいるでしょう。ここで、この木こりをガソリンスタンドに置き換えてみます。
ガソリンスタンドは、収益の不安定なガソリンや軽油といった燃料油による収益を補うべく、タイヤや洗車といったガソリン以外の商品、いわゆる油外商品を販売して収益を安定させようとします。
あるガソリンスタンドの運営会社では、この油外商品の収益を向上させるために、業績の悪い店長を経営陣が店長会議で吊し上げにしていました。
別のガソリンスタンドを運営する会社の経営陣は、アルバイト含めた全スタッフが、油外商品を顧客へ1日に何回お勧めしたかをカウントさせ、毎月集計・公表をしていました。
さらに別のガソリンスタンド運営会社では、12:00、15:00、18:00と1日に3回、全店の油外商品販売実績を本社が集計し、その都度全店へFAXをしていました。
これらの取組みに共通するのは、経営陣に「スタッフの販売力」という刃を研ごうという意識がないことです。目的は油外商品の販売による収益向上であるにもかかわらず、目先の業績だけを追い、スタッフの販売力向上に目が向いていないのです。
この販売力という刃には3つのポイントがあります。よって、これらの刃を研ぐための取組みが必要であり、以下でそれぞれを見ていきます。
研ぐべき刃1:アプローチ
アプローチとは、油外商品の販売における最初の取っ掛かりを指します。例えば、セルフサービスのガソリンスタンドでドライブスルー洗車を利用するためにご来店なさった顧客へ対し、いきなり「洗車プリペイドカードはいかがですか」と訊くケースは非常に多く見受けられます。
しかし、このような御用聞き的な販売は、成約率が低いのが通常です。アルバイトスタッフだから仕方ないのではなく、現場の最前線を任せているアルバイトスタッフだからこそ、御用聞き的な販売から脱却させる必要があります。以下のコラムを参考にして下さい。
洗車収益を上げたいガソリンスタンドが解消するべき3つの疑問
顧客への挨拶から始まり、月にどれくらい当店を利用しているのか、利用する洗車メニューはどれが多いのかなど、顧客に応じた販売をするために、顧客の現況を聞き出します。よって、アプローチとして投げかける質問を準備させる必要があります。
そして、アプローチの次に行うのはヒアリングとなります。
研ぐべき刃2:ヒアリング
アプローチで顧客に質問を投げかける以上、返答があるわけで、これをしっかり受け止める必要があります。販売の現場で目にしがちなのは、顧客からの返答を受け止めない販売ありきの質問です。「このように質問したらこのような答えが返ってくるだろうから、このように勧めてやろう」といった考えが見え見えのパターンです。
返答を受け止めた上で、当店の油外商品を購入することにより、顧客の抱える課題を解決できたり、よりお得なカーライフを過ごすことができたりする、といった提案をするために、しっかりヒアリングを行う必要があります。この場合に押さえておきたいスキルが傾聴のスキルであり、以下のコラムを参考にして下さい。
ロードサイド店舗の店長が身に着けたいコーチングの基本スキル
顧客心理を活用した販売による客単価向上策
そして、ヒアリングの次に行うのはクロージングとなります。
研ぐべき刃3:クロージング
クロージングは販売を成立させ、商談を締めくくることを意味します。アプローチとヒアリングを通じて、顧客の小さなyesを何度も引き出し、最終的に購買するという大きなyesを引き出すことです。
洗車プリペイドカードの販売を例にとると、以下のようなやり取りで小さなyesから大きなyesに繋げていくことが可能です。
店員「週に1回ワックス洗車をするのなら、月間で2,000円の洗車代がかかっているんですね」
顧客「うん、それくらいかかってるかな」←小さなyes
店員「5か月で10,000円ですね」
顧客「そうだね」←ちいさなyes
店員「10,000円のプリペイドカードなら12,000円分使えますから、ひと月分の洗車代が浮きますね」
顧客「そうだね」←小さなyes
店員「お買い上げいただくと、今日から使えますが、ご購入いかがですか」
顧客「じゃ、一枚もらおうか」←大きなyes
顧客の多様かつ小さなyesを見逃さずにクロージングへ持っていくには、その顧客に興味を持って接することが重要です。これに関しては以下のコラムを参考にして下さい。
惚れられてまう!ガソリンスタンドで神対応が出来た3つの理由
今回のコラムでは、ガソリンスタンドが油外商品を販売するために研ぐべき3つの刃として、1.アプローチ、2.ヒアリング、3.クロージング、を挙げました。米を収穫するには、田を耕し、水を張り、稲を植え、育てるというプロセスが必要です。アプローチから始まるプロセスをひとつひとつ充実させることにより、販売力が向上する可能性が高まります。
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