店舗を運営していると、わざわざ店舗に足を運んでくださった顧客のご要望に応えられないことがあります。そのご要望に応えられないパターンの1つに、あるはずのものが買えないという在庫切れがあります。
顧客の無理な要望に応えられないのではなく、顧客が単に買いに来たという行為に応えられないこの在庫切れは、店舗としては絶対に避けなければなりません。ですが、予想外の需要増や、仕入先の欠品などで、在庫切れを起こすこともあります。
その場合、顧客は他の店で買えばよいわけですが、それは、顧客離れのきっかけになりかねません。ここに在庫切れを絶対に避けるべき理由があるわけですが、今回のコラムでは、在庫切れを起こした店舗の事例を通じて、在庫切れを機会損失にせず、顧客が再来店したくなるような対応を見ていきます。
販売用整髪料の在庫切れ
私は10日間のゴールデンウイークが始まる前々日、散髪に行った理容店で整髪料を勧められました。髪がまとまりやすく、また、これからの汗をかく時季に対応して、ほのかな香りもあるものです。自宅で使っている整髪料はちょうど無くなりかけていましたが「まだ大丈夫かな」と思い、その日は買いませんでした。
ですが、ゴールデンウイークが開けた今週は、本日含め泊りがけの出張が2回あり、出張先で整髪料を切らしたくないと考えた私は、整髪料を勧められてから10日以上経過した昨日、その店舗へ整髪料を買いに行きました。
ところが、私が前回散髪に訪れてから、整髪料がだいぶ売れたそうで、在庫が切れているとのこと。仕方なく退店しようとした私に、店主が声を掛けました。
手ぶらで帰さない工夫
「私たちが業務用で使っているものを少しですがお分けしますので、持って帰ってください」
このように言った店主は、プラスチックのケースに業務で使用している整髪料のチューブを絞って10日分ほどの分量を小分けにしてくれました。
このような対応に対して、人は返報性の原理が働きます。
返報性の原理とは
2人一組のペアを複数作って、ある実験が行われました。メンバーの1人は仕掛け人、もう1名は被験者です。
Aチームは、実験の休憩中に仕掛け人が2本のコーラを買ってきます。そしてそのうちの1本を「君の分も買ってきたよ」と言って被験者に与えます。これに対して、Bチームは実験の休憩中に仕掛け人は何もしません。
実験終了後に仕掛け人は被験者に、自分は新車が当たるくじを売っていて、そのくじを出来るだけたくさん買って欲しいことを伝えます。その結果、Aチームの被験者はBチームの被験者と比べて2倍の枚数のくじを買いました(心理学者デニス・リーガンの実験)。
このように、人は何かしてもらうと、それに応えようとします。これを返報性の原理と言います。
私は、様々な店舗のサービスを見てみたいので、原則として、毎月散髪する理容店・美容院を変更するようにしています。そこで今月は、ある美容院に行くことにしていましたが、今月は前述の整髪料を小分けにし、無料で提供してくれたこの理容室に行くことに決めました。
在庫切れを起こさないに越したことはありません。ですが、在庫切れを起こしてしまったら、単に顧客を返すのではなく、なにがしかの「お土産」を差し上げることにより、返報性の原理が働き、再来店に繋がる可能性が高まります。
そして、在庫切れを起こさない状態でも、返報性の原理を働かせることのできる店舗が繁盛店になり得るのでしょう。
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